ツーと涙が頬を伝った、
ぼくは思わず顔を両手で覆い、下を向いて塞ぎこんでしまった。
すると、頭の上から声が聞こえた。
「どうかしましたか?」
ふと顔を上げると、そこに見知らぬ老夫婦らしき人の姿があった。
心配そうにぼくの顔を覗き込んでいる。
「あ、いえ、なんでもありません。」
「随分お顔の色が悪いようだが。。」
夫と思われる老人がなおも心配そうにぼくを見ている。
「だ、大丈夫です。ちょっと目まいがしたものだから。すみません、心配をおかけして。。」
「そう。。ならいいんだが。。若い者は無理をしがちだからな、気をつけなさいよ。」
「えっ?」
無理という言葉を聞いて、何か胸に込みあげてくるものを感じた。
この時、初めて目の前の老夫婦の姿をまじまじと見た。
ぼくのことを心配しながらも、
二人の表情は非常に穏やかで、幸せを感じさせるものだった。
仲良く手を繋ぎ、お互いを支えあうようにして立っているその姿も、ぼくにはとても眩しく感じられた。
どうしたら、あんなふうに生きていけるんだろう。
どうしたら、あんな幸せそうな顔ができるんだろう。
ぼくの視線に気付いた老人が不思議そうな顔をした。
「わたしたちに何か?」
ぼくは慌てて打ち消すように言った。
「い、いえ、すみません。あんまり仲がよさそうだったから、つい。。」
老夫婦は顔を見合わせて、笑みを浮かべた。
「そんなに仲がよさそうに見えたかね。」
「あ。。はい。。どうしたらそんなふうになれるのかなって。。」
老人はにっこりして言った。
「わたしたちはね、お互いを必要としているから、こうやってずっと一緒にいるんだよ。」
そう言ってから、老夫婦は、体に気をつけなさいよ、とまた言い残し、その場を去っていった。
人生はゆっくりと歩いていくもんだよ、とでも言いたげな物静かの足取りだった。
その後姿を見送りながら、ぼくは漠然と老人の言葉について考えていた。
無理をしない。。お互いを必要としている。。
ぼくにはその言葉の持つ意味がはっきりとわかったわけではなかったが、
心が安らぐ、そんな印象を受ける言葉だった。